たぶんだが、主要国でアメリカ人ほどナショナリストはいまい。
なにせ、国家のために何ができるのかというケネディの演説が今も名演説の国だ。
他民族国家ではないのか? って。
だからだよ。
だからナショナリストばっかりなんだ。
多様な人間のいる社会だからこそ、明示的な支柱が必要になる。いまだにモンキートライアルじみた馬鹿な宗教国家なのも、そのせいだ。
戦後、民族ごとにそれなりに分離されたヨーロッパで急激に宗教のパワーが失われたのもそのせいだ。
今では教会通いは老人とアホのすることだ。
日本でも戦前はモンゴル人、朝鮮人、琉球人(まだ民族意識があった)、中国人、満州人などを統合するために国家神道が使用されたのはいうまでもないが、帝国の崩壊後、神道の影響力は見る間に衰えた。
神道が衰えたのは現人神の天皇がいなくなったからではなく、民族統合装置としての機能を喪失したからだ。戦後、日本人は一億総日本人として生きていく。
明治期に国家神道は民族統合装置として機能した。
なぜなら、江戸時代の残り香がするこの時代には、国家=藩だと考える人間が後を絶たず、日本人(民族)を生み出す必要があった。
イスラム世界はいまだにクルド人問題もそうだが、民族自決が完了していない。そのせいで原理主義が誕生している。
アメリカのキリスト教原理主義的な動きと、中東のイスラム原理主義は表裏一体だ。
アメリカは彼らを想像での及ばない鬼畜のように語るが、おまえらは同じものなのだ。そっくりなのだ!!
インドにおいては少々事情が異なり、宗教の代わりにカーストが強い羈束を得た。
この問題は解決する兆しが見えないが、カースト制は時代が遡った方が実はマシになる。
なにせ、イギリスがくるまで、インドには千以上の国家が林立しており、宗教による10億人の統一のような概念は必要なかったからだ。
アメリカ人がナショナリストで宗教に篤いのは、多民族社会だからに他ならない。
格差社会も手伝っている。
そしてその社会の状況は、日本や韓国、西ヨーロッパのように多数派民族が支配的(9割以上)な社会ではなく、アメリカ社会はいろいろな民族が乱舞する中東やインドに世界として近い。
合衆国に後進国の香りがするのはこのせいだ。
アメリカは移民の国ゆえに、民族自決が完了していない国と同質なのである。
ゆえに、中国人はいまでこそナショナリズムを高揚しているが、案外長持ちすまい。欧州や日本のようにシラケムードになるはずだ。
ナショナリズムも宗教も、漢民族が支配的なあの国には必要はないのだ。
逆に言えば、ナショナリズムのエンジンである「拡張主義」「覇権主義」もまた同時に潰える。
逆に、WASP人口が減るアメリカはますます、ナショナリズムを高めていく。
アメリカの膨張主義(こういうと国土拡張を連想する馬鹿しかいないが、経済的膨張主義こそ現在のアメリカの主軸であり、膨張主義の一種なのは自明)はとどまることを知らないだろう。
アメリカ人である証明はナショナリズムでしか担保できないからだ。
アメリカ市民になっても、アメリカ民族になるわけではないからだ。
これが中国であれば、帰化してしまえば、中国民族になる。歴史的にもそうだ。三代も続けば、もう漢民族になる。
しかし、アメリカでは300年経っても黒人は黒人のままにされる。アメリカ民族はいないからだ。ないものになることはできない。あの国がいつまでも人種に拘泥するのも、そのせいだ。
レイシズムなどというものは、日本や欧州ではかなり冷めてしまった過去の遺物で、レイシストたちは依然存在こそすれ、話題にする必要もないような存在だ。
ナショナリズムは敵を必要とする。
自国が強いこと、素晴らしいことをナショナリストは証明したいからだ。
また、インドが覇権主義、拡張主義をとる可能性は低い。
先に言ったように、インドはナショナリズムへ向かわず、カーストへ向かったからだ。
カーストをインド人であれば皆適用されうる何かとしてとらえたからだ。
このため、非常に内向きで、国家が崩壊するとすれば、民族統合がなされる可能性の低いインドであって、中国ではあるまい。
アメリカの覇権主義は、民族への読み替え(アメリカ市民=アメリカ民族)が起こらない限り、永久に続く。
アメリカ人というエスニックグループが成立しない限り、アメリカは世界を侵略し続ける。
たとえ、アメリカ人が血統的にヒスパニックとチャイニーズに入れ替わったとしても、だ。
そしてこの読み替えは起こりそうもない。
BLM運動はむしろ、アメリカ人というエスニックグループの成立を困難にし、黒人階級の固定化をまねく悪魔の思想だ。
また、アメリカ人というエスニックグループの成立に厄介なのが、宗教や言語を支柱にできないことだ。英語はイギリスのものだ。
宗教もまたヨーロッパのものだ。もし、アメリカ教というものがあれば、ユダヤ人のような概念も成立しえた。
そう、ユダヤ人は宗教を支柱に据えたエスニックグループなので、中国に1000年以上前から住んでいるモンゴロイド系で漢語を話すユダヤ教徒のグループや、エチオピアに2000年前から住んでいる黒人でエチオピアの言葉を話すユダヤ教徒も、同じユダヤ人として、イスラエルは迎え入れた。
人間は同じグループに所属するという気持ちを補強し、社会を安定化しようとする。
ブラジルでは混血が進んでいるため、ブラジル人というエスニックグループが生まれそうだが、合衆国では程遠い。
しかしながら、アメリカと同じ状況にあるのがアラブ社会だ。
イラン人のように歴史的言語的にエスニシティを概念化できる民族はいいのだが、多くのアラブ人がいまいちこれができていない。
なぜなら、アラビア語は特定の民族の言語とは言えず、イスラム教もそうだからである。
なので、私が思うに、21世紀も半ばに近づくと中国人は覇権主義への興味を失うだろう、と思う。
中国人はアメリカ人と異なり、世界征服には興味がない。朝貢貿易とは何だったのか知ればおのずとわかるはずだ。
アメリカが対峙し続ける運命にあるのは、ロシアでも中国でも欧州でもない。
民族を規定できる言語、文化がたくさんあるアフリカでもない。
アフリカの問題は国境線と民族が乖離している点であって、エスニックグループ不在ではない。
中東だ。
中東はイランやトルコなどの民族概念の読み替えに成功した国家以外は、エスニックグループが不在であるか、かなり弱い。
だから覇権主義や拡張主義、原理主義をやめることができない。
アメリカも同様、覇権主義、拡張主義、原理主義をやめることができない。
かといって戦争はできまい。
結果、アメリカはテロリズムにさらされ続け、世界にテロとの戦いを訴え続けるだろうが、ほとんどの標的はアメリカでしかなく、日本や欧州、中国などはしらけた目でそれを見ることだろう。
現在ではアメリカの覇権主義(ウクライナ戦争もそうだろう)に日本や欧州はのっかっているが、その不利益に気づくのも時間の問題だろう。
ナショナリストの国である米国は、日本も欧州も養分としか思っていない。
21世紀最大の問題は、チャイナリスクではなく、アメリカリスクが話題になるだろう。
チャイナリスクはしょせんサプライチェーンの問題でしかないし、技術漏洩はファクトリーを海外に移転すればどこでも発生するリスクでしかなく、中国固有のものではない。
しかし、アメリカリスクはアメリカしか起こしえない。
日本人は鳥頭なので忘れているが、日米貿易摩擦による日本への制裁、不利な条件での貿易の改定、サブマリン特許の日本企業への適用、こういったアメリカの嫌がらせ、自国しか得をしない協定などの押し付けはずっと昔から行われてきたことで、最近でも特定の中国企業と取引した企業に制裁を科すという法律も成立している。
アメリカの国内法が、軍事力を背景に外国企業の行動を規制する。
これがリスクでなくて何なのか。
アメリカの国内法でしかないので、外国はどうしようもできない。いつ成立するのかもわからない。
成立してしまったら、従わないという選択肢はない。
それはアメリカが巨大市場であり、巨大な軍事力を持っているからだ。
今後アメリカリスクはより高まっていく。チャイナリスクなど比ではない。
チャイナリスクを喧伝するデマゴーグに騙されてはいけない。
世界が戦うべきはロシアではない。世界の敵はイスラムでも中国でもない。アメリカだ。私たちは団結してアメリカの世界征服と戦わねばならないのだ。
21世紀はアメリカの世界征服との戦いの世紀となるだろう。